非和声音(転移音・和声外音)

Nonharmonic tone / Harmoniefremder Ton

 和音構成音以外の音は「非和声音」と分類されますが、決して独立したものではなく、和音音と密接に関わっています。

経過音経過音
隣接音刺繍音
倚音
掛留音
逸音
先取音

 非和声音は大別すると「経過音」と「隣接音」に分けられます。

 経過音は異なる2音の和声音を音階的につなぐ非和声音であり、隣接音は1つの和声音をふちどるものです。

ふちどり方による隣接音の分類

刺繍音2つの和声音の中央に置かれる
倚音和声音の前に置かれる
掛留音前の和音から延長される
逸音和声音の後に置かれる
先取音後の和音で打ち直される
解決声部変質解決音との同時出現
経過音すべて変質されない短2度のみ禁止弱拍
刺繍音すべて下部隣接音のみ弱拍
倚音省略可ソプラノ下部隣接音のみバスが好ましい
上方に同時は不可
強拍
掛留音省略可すべて下部隣接音のみバスが好ましい
上方に同時は不可
強拍
逸音×ソプラノ弱拍
先取音×ソプラノ弱拍

※ 和音表記(ローマ数字)が赤文字のものは根音省略形を表しています。

経過音 ( passing note/tone, Durchgangsnote, note depassage)

経過音は2つの和声音を音階的につなぐ非和声音です。ここでは「カ」を使って表示しています。

 譜例の経過音はCメジャー・トライアド上での例です。経過音は1つとは限りません。もっとも細分化すれば、半音階進行の経過音になります。

 あくまでも、音階的につなぐ必要がありますので、譜例のA音が抜けてしまったら経過音にはならなくなってしまいます。

 経過音は、別の和声音と短2度で接触してはなりません。これは、ボイシングを工夫すれば回避できるでしょう。

経過音の判定

 早いテンポにおける音階音は、両端だけを和声音とし、残りはすべて非和声音(経過音)とみなします。    

Beethoven:Op.59,No.3
刺繍音による装飾

 それぞれの経過音に刺繍音が付加されたケースです。

倚音による装飾

 それぞれの経過音の前に倚音が付加されているケースです。

掛留を兼ねた経過音

 2つ目の経過音が掛留の役割も果たしているケースです。

逸音による装飾

 それぞれの経過音に逸音が付加されているケースです。

先取音による装飾

 それぞれの経過音に先取音が付加されているケースです。

連続刺繍音

刺繍音/補助音 ( auxiliary note, Neighbor note, Wechselnote, brodderie)

 2個の和声音にはさまれた隣接音です。ここでは「シ」で表示します。

 刺繍音は、和声音より上に置かれれば「上部刺繍音」、下に置かれれば「下部刺繍音」とも分類されます。下部刺繍音のみ「上行変質」が可能です。

 また刺繍音は「上部刺繍音」と「下部刺繍音」を連続して用いることもできます。

刺繍音による装飾

 最初の刺繍音B音に対してさらにA#の刺繍音が加えられた例です。

倚音による装飾

 刺繍音Bの前を倚音A#が装飾しています。

掛留を兼ねた刺繍音

 刺繍音がそのまま掛留を兼ねているケースです。

逸音による装飾

 刺繍音は和声音に戻らず、逸音につながっているケースです。

先取音による装飾

 先取音による装飾ですが、単に「刺繍音が2度打ちされている」との解釈もできます。

経過音による装飾

 刺繍音の前後に経過音が挿入されているケースです。

掛留音 ( suspension, Vorhalt)

前の和声音が引き伸ばされたまま、別の和音において非和声音になり、遅れて解決されます。「ケ」で表示しています。

 掛留の解決音はバス声部以外に置かないほうが無難です。また掛留音と解決音が2度音程で接触したり、解決音を掛留音より上の声部に置くのは避けるべきです。

 掛留が解決すると同時に和音が変わるケースもあります。

刺繍音による装飾

 掛留音が経血される前に刺繍音で装飾されているケースです。

掛留音の連続使用

 掛留音が解決されないまま、新たな和音で掛留となっているケースです。

逸音による装飾

 掛留が解決される前に逸音を伴っているケースです。

経過音による装飾

 掛留が解決される前に経過音を伴っているケースです。

倚音による装飾

 掛留が解決される和声音に倚音が付加されているケースです。

倚音/予備なし掛留 ( appoggiatura, freier Vorhalt, Vorschlag)

 掛留音は前の和音から準備された非和声音ですが、準備なしでいきなり現れるのが「倚音」です。基本的には強拍で用いられます。「イ」で表示しています。

 倚音も和声音の上に置かれる「上部倚音」と下に置かれる「下部倚音」に分けられます。下部倚音はほとんどが上行変質されますが、上部倚音は普通、変質されません。

 解決音が、バス声部以外で重複されるのはなるべく避けるようにしましょう。

 倚音のボイシングで注意すべき点は2つあります。

  • 和声音と倚音で2度音程が作られないこと。
  • 倚音より上部に、解決音が重複されないこと。

 倚音も刺繍音と同様、上部音と下部音が連続して用いられることがよくあります。

弱声倚音

 弱拍や強勢のない部分で用いられる倚音もあります。弱声倚音に関しては、解決音が上声部にあっても問題ありません。

同時倚音

調の主音(I) 上にV7やV9 が置かれることがあります。これらは全てが非和声音で「同時倚音」と呼ばれています。たいていは、ドミナント・コードを先行させています。和音記号はV7を乗せたものが「I11」、V9を乗せたものが「I13」と表記されます。長調では、短調の♭6thを借用することも可能です。

刺繍音による装飾

倚音が刺繍音で装飾されているケースです。

倚音による装飾

 本来の倚音はDですが、その前にさらにC#の倚音が付加されているケースです。

掛留を兼ねた倚音

 倚音は解決されず、そのまま次の和音の掛留音となってから解決されているケースです。

逸音による装飾

 倚音は解決されず、逸音が続いているケースです。

先取音による装飾

 倚音が、前の和音の中で、先取りされている(先取音)ケースです。

経過音による装飾

 倚音はすぐに解決されずに、経過音をはさんでいるケースです。

連続倚音

逸音 (escaping note, échappé)

逸音は2つのパターンがあります。一つは和声音から順次進行した音が跳躍して、次の和声音に達するもので、順進的変過音(Abspringende Nebennote)とも呼ばれます。もう一つは、跳躍してから次の和声音へ順次進行するタイプで、「跳躍的変過音」とも呼ばれるものです。

 ここでは両者を区別なく「ツ」で表示しています。

 

 前者は刺繍音の後半の和声音が省略されたものとも解釈できます。

刺繍音による装飾

 逸音が刺繍音によって装飾されているケースです。

倚音による装飾

 逸音に先立って倚音が置かれているケースです。

掛留を兼ねた逸音

逸音であると同時に、次の和音の掛留となっているケースです。

先取音による装飾

  逸音が2回使われることで、最初のほうが先取音になっています。

経過音による装飾

  経過音を使って逸音が導かれています。

先取音 (anticipation, Vorausnahme)

次に来る和音の構成音が、先に現れるタイプの非和声音です。「セ」で表示ししています。

刺繍音による装飾

 先取音に刺繍音が付加されたケースです。

倚音による装飾

 先取音に倚音が付加されたケースです。

先取音の重複
経過音による装飾

  先取音に至る前に経過音を挿入しています。

7音・9音の装飾

 4和音の7音や5和音の7音・9音は直接解決するだけでなく、ほかの和声音をいったん通過させてから解決することができます。さらに、その通過音に非和声音を加えることで、より複雑な装飾も可能になります。

偶成和音

 非和声音によって偶然、見かけ上の和音が生じることがあります。偶成和音は、使われている非和声音の種類によって以下の通り分類されます。

  • 刺繍和音:刺繍音によって生じる偶成和音
  • 倚和音:倚音によって生じる偶成和音
  • 掛留和音:掛留音によって生じる偶成和音
  • 逸和音:逸音によって生じる偶成和音
  • 先取和音:先取音によって生じる偶成和音
  • 経過和音:経過音によって生じる偶成和音
  • 非和声混合和音:各種の非和声音が混ざって生じる偶成和音
同一低音上の刺繍音によって形成される刺繍和音
掛留和音/倚和音
経過低音上の偶成和音(同一和音)
経過低音上の偶成和音(異なる和音)
刺繍低音上の偶成和音
経過和音としてのV7

実例

Bach:Chorale No.369

 3拍目テノールのE♭は経過音で生じる7音。全体的に、経過音が解決すると同時に和音が変わるパターンで構成されています。

Bach: Brandenburg_Concert_No.3_I
Mozart:Sonata, K.331
Schumann:Carnaval,Op.9,No.5
Berlioz:Symphny fantastique, II
Liszt:Sonata
Liszt: Les Preludes

「ホ」は「保続音」の略記です。保続音については別項を参照ください。

Beethoven:Sonata, Op31, No.1-II

一見倚音に思えますが、弱拍に置かれている非和声音なので、不完全な形の刺繍音と解釈できます。

Handel:Concert grosso, Op.6, No.5-IVth
Bach: Well-Tempered Clavier I, Prelude No.24
Beethoven: Sonata Op.7-IV
Brahms: Piano Concerto No.2-IV
Bach: Christmas Oratorio
Bach:Well-Tempered Clavier II,Fugue No.5
Brahms: Variations on a Theme by Haydn
Schubert: Rond, Op.107

 楽曲の中に現れる種々の和音が、独立した、本来の機能を有する和音なのか、偶成和音なのかを見分けるのは難しく感じます。ただ分析はあくまでも分析であり、大事なのは作曲する際に、どういう意図で音を扱っているか意識することだと思います。固有和音にするか偶成和音にするかが問題なのではなく、両者に属さない音を使わない、あるいは意識的に使うという姿勢こそが大事なのではないでしょうか。