和声学習のガイドライン

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ここでは、和声を効率的に学習する手順を紹介してみたいと思います。

筆者はかつて、音大の和声の授業で挫折しました。いま思い返してみると、その原因は、和声学習の目的が不明瞭であったこと、そして和声の全体像が掴めなかったことにあると考えています。

あなたがこのページにたどり着いたのは、何らかの目的があるに違いありません。作曲したい、演奏の役に立てたい、音楽鑑賞でもっと楽曲の仕組みを理解した等々、いろいろ考えられます。

作曲するにせよ、演奏するにせよ、和声の知識が欠かせないのは事実です。ただし、和声理論というのは、実際の音楽に付随するものなので、音楽から切り離して理論だけを吸収しても実を結ぶことはないでしょう。理論は実際の音楽から導き出された規則であり、手法なのですから。クラシック音楽を学んでいる身で、ジャズの和声理論を一生懸命吸収したところで、役には立たないでしょう。もちろん各ジャンルの音楽理論はかなりの部分でリンクしており、共通部分もありますから完全に無駄とは言い切れないのですが、それは全体的な理解があって初めて役に立つということです。

現在、和声理論は3種類あります。

  1. クラシック音楽の和声理論
  2. ジャズの和声理論
  3. ポピュラー音楽の和声理論

今の音楽が、平均律、12音を基盤としている以上、3つのジャンルの理論の根っこの部分は同じだと言えますが、やはりご自分のたずさわっているジャンルの理論から始めるのが自然でしょう

また、クラシック音楽、ジャズと一言でくくっても、実際には時代によってかなりの違いがあります。クラシック音楽ではルネサンス、バロック音楽、古典派、ロマン派、新古典派、印象派、現代音楽(今となっては曖昧な用語ですが)、ジャズでもディキシーランド、スウィング、ビバップ、ジャズ・ブルース、フュージョン、スムース・ジャズ等々、枚挙にいとまがありません。もちろん、理論もそれらの音楽に対応してバラエティ豊かな内容になるはずですが、実際にはかなり大雑把なのが現状です。

たいていの書籍は、この部分が「〜スタイル」「〜時代」に即しています、といった解説は行なっていません。当然です。それぞれのスタイル、それぞれのミュージシャンは、新たな美意識によって従来なかった響きを追求するものなのですから。ですから、音楽理論は過去の道具に過ぎないということです。過去の分析には役立ちますが、新たな、あなたの感性に応じた音楽には、あなた自身があなた独自の道具を作らねばならないのです。何もないところから道具を作り出すより、参考となる道具があったほうが、時間の節約にもなりますし、無駄な試行錯誤をしなくても済むという意味で、音楽理論は有用なのです。

そうした観点を持ちつつ、音楽理論、ここでは和声理論ですが、学んでいけばきっとあなたの大きな財産になることと思います。

ここでは、楽譜の書き方や、楽典的な知識があるものとしてスタートします。また、和音学習においては、必ず音を出して確認しながら学ぶ・記譜することが大事なことも言い添えておきます。

1. 和音とは何かを理解しましょう

「和音」とは何かが分かっていなければ、何も始まりませんね。おそらくは和音のイメージは掴まれているでしょうが、再確認しておきましょう。この項目が理解し難いのであれば、「楽譜のしくみ」で楽典を再確認してください。

和音=コードは、3音以上の高さの異なる音を組み合わせて生じる響きのことです。書籍によっては2音としているものもありますが、それは楽曲の中で、結果として生じる2音であって、完璧な状態ではありません。また、バッハの2声のインヴェンションは2音以上にならないではないかと突っ込まれるかもしれませんが、和音は同時(垂直に)鳴るだけでなく時間の経過に沿って(水平に)も生じるものなので、何ら問題を生じません。

和音の基本中の基本は、3音から構成される「3和音」(トライアド=Triad)です。それぞれの構成音は互いに3度音程で、積み重なる最低音が根音=ルートと呼ばれ、最初に積み重ねられた音が「3音=third(3rd)」、次に積み重ねられた音が「5音=fifth(5th)」と呼ばれます。この5音にさらに3度音程の音を重ねたものが「4和音」、さらにもう一つ積み重ねたものが「5和音」と呼ばれます。一般的には「4和音」は「7の和音=7th Chord」と呼ばれます。「5和音」は「9の和音」、「6和音」は「11の和音」で、「13の和音」が3度堆積の限界となります(構成音は7音)。ただし、ジャズやポピュラー音楽では7の和音が基本で、それ以上の音はテンション扱いとなります。

基本形と転回形

和音は常にルートが最低音として使われる(基本形)とは限りません。3音が1番下(ベース)に来ると、それは「第1転回形」と呼ばれ、5音がベースに置かれると「第2転回形」と呼ばれます。なお、コードネームのスラッシュ(/)の後の音名はベース音を表していて、ポピュラー形の楽譜ではこの表記法が一般的になっています。

また誤解の無いよう、言い添えておきますが、上記の配置は和音の仕組みを表すためのモデルであって、実際には様々な間隔で構成音が配置されます。そしてどれもが同じコードネームで呼ばれるのです。

3和音の種類

3度音程には「長3度」「短3度」「減3度」「増3度」等がありますが、基本的には「長3度=Major 3rd」と「短3度=Minor 3rd」しか使われません。この2種類の3度音程の組み合わせ方で、3和音は4つの和音が導き出せます。

※ M3=Major 3rd(長3度)、m3=Minor 3rd(短3度)

3和音のバリエーションとして「掛留和音=Suspended Triad」というものもあります。これはメジャー・トライアドの3音を半音上げたもので通常は「sus4」と表記されます。

4和音(7の和音)の種類

7の和音は、基本的な3和音にさらに3度音程の音を積み上げてできる和音です。基になる3和音と積み重なる3度のタイプによって合計7種類の和音が形成されることになります。

各キー(調)のスケール音だけで形成されるコードをダイアトニック・コードと呼びます。まずは、メジャー・キーとメイナー・キーのダイアトニック・コードを覚えてしまいましょう。ジャズやポピュラーでは4和音を用いるのが基本です。

メジャー・キーのダイアトニック・コード

3和音に関して、メジャー・キーのダイアトニック・コードには「メジャー・トライアド(長3和音)」「マイナー・トライアド(短3和音)」「減3和音」しか作られません。「増3和音」は特殊な和音になります。(注意:ディミニッシュは一般的に減7の和音を指すことが多いため、コード・ネームもそれに準じています)

Cメジャー・キー(ハ長調)のダイアトニック・コード一覧はこちら
Gメジャー・キー(ト長調)のダイアトニック・コード一覧はこちら
Dメジャー・キー(ニ長調)のダイアトニック・コード一覧はこちら
Aメジャー・キー(イ長調)のダイアトニック・コード一覧はこちら
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Bメジャー・キー(ロ長調)のダイアトニック・コード一覧はこちら
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マイナー・キーのダイアトニック・コード

マイナー・キーには3種類のスケールがあるので混乱するかもしれません。ハーモニック・マイナー・スケールとメロディック・マイナー・スケールのダイアトニック・コードは、V7を除いて、現段階で覚えなくても大丈夫です。そうすると、マイナー・キーはトニック(主音)が短3度下の音になっただけなので、すべての音・コードがメジャー・キーと同じということになりますので、メジャー・キーをしっかりと理解・記憶していれば、覚えるのに苦労することはないでしょう。

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Bマイナー・キー(ロ短調)のダイアトニック・コードの一覧はこちら
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「9の和音」以上について

3度堆積の和音に関しては、「9の和音」以上で、クラシックとジャズ系で扱いが違ってきます。

ジャズやポピュラーでは9度、11度、13度の音はテンション扱いになりますが、クラシックの世界では、特に古典和声において、5和音を限度とし、それ以上の和音に関しては、非和声音による偶成和音とみなしています。ただし、ロマン派以降、和音の使用領域は拡大してかなり自由になっています。それらに関しては、作曲家ごとに個別に作品を研究しないといけないかもしれません。

付加和音

これは3度堆積の和音ではありません。ルートから6度の音を足したものになります。

他にも色々なコードがありますが、とりあえず以上のコード類を押さえておけば支障ないでしょう。以上のコードが、コードネームを見てすぐに楽譜にかける、音を出せるようにすることが肝要です。

2. 和音と調性の関係を理解しましょう

和音は単体で鳴らしたところで意味がありません(そうとも言い切れませんが)。各和音が一つのキーの中でどんな存在なのか、互いにどんな関係にあるのかを理解しなければなりません。そのためにも、全てのキーで、メジャー・スケール及び3種類のマイナー・スケールがスラスラ演奏できるようになっていないといけませんし、各音の度数も難なく言えなければなりません。一つ注意しておきたいのは、メロディック・マイナー・スケールはクラシック系では上行形と下行形が異なっていますが、ジャズ形では下行形でもVI度音・VII度音をそのまま用いている点です。

もしスケールに不安があれば、以下のリンクで習熟しておきましょう。

音階と調号[メジャー・キー]はこちら
音階と調号[マイナー・キー]はこちら

和音の機能とは?

それぞれのキーの中でコードはある役割を担っている(と仮定されています)。リーマンという音楽学者が提唱した機能論で、一般的に用いられている和声理論です。紛らわしいのですが、音階の各音には名前があります(通常はローマ数字で表記されます)。ハ調長音階(Cメジャー・スケール)を例にとると、

特に重要なのが、青文字になっている「トニック」「サブドミナント」「ドミナント」の3音です。日本語では次のようになっています。

  • Tonic = 主音
  • Subdominant = 下属音
  • Dominant = 属音

各キーが、その調性だと認識されるためにはこの3種類の音が使われなければならないのですが、それには訳があります。主音は調の中心の音であり、属音は主音に引き寄せられる、主音に解決されることを欲する音です。逆に下属音は主音から遠ざかろうとする傾向を持った音です。ですから、この3種類の音をルートとした和音にも当然、同じような傾向が生じるのです。それを和音の機能と堅苦しい名称で呼んでいるわけです。この3つのコードは「主要3和音」とも呼ばれています。

そうすると、残りのコード、II・III・VI・VIIはどうなるのでしょう? 実はこれらのコードは、それぞれ主要3和音との共通性から、いずれかの機能を代理するものとして考えられています。

  • II度上の和音 = サブドミナントの機能を代理 / 第2ドミナント(ドミナントの補助機能)
  • III度上の和音 = トニック機能を代理
  • VI度上の和音 = トニック機能を代理
  • VII度上の和音 = 機能的に薄弱

もちろん、マイナー・キーの各コードも機能が与えられています。今のところ、ナチュラル・マイナー・スケール上のダイアトニック・コード一覧しか掲載していませんが、今後、ハーモニックとメロディックの一覧も掲載する予定です(他サイトでも必ず取り上げているはずなので探してみてください)。

クラシックの古典和声とポピュラー系和声の大きく異なる部分は、機能間の関係です。古典和声では、ドミナントからサブドミナントへの進行を退けていますが、ポピュラー系では自由に行き来できるとしている点です。

つまり、古典和声ではドミナント・コードに進んだら、トニック系のコードに進むしか道はないということです。

ケーデンス(終止形)とは

「終止形」と訳されているカデンツですが、曲の最後だけに使われるものではありません。調を確立させるための王道パターンと捉えたほうがわかりやすいでしょう。

  • T – D – T
  • T – SD -T
  • T – SD – D – T
  • T – D – SD – T (ポピュラー系のみ)

これらが基本になります。各機能に相当するコードを用いることでダイアトニックの様々な進行が作られます。例えば「T-D-T」は単純な「I-V7-I」だけでなく、「I-VI-VII-V-I」「I-III-V-VI」というふうにどんどんバリエーションが作れるのです。

ドミナント・モーションを理解しよう

上述のようにV度音上に形成される和音はドミナント機能を担う重要なコードです。基本的には4和音つまり「属7の和音」として用いられるのが一般的なのですが、その理由をここで理解しておきましょう。V度和音、Cメジャー・キーならば「G」となりますが、この3和音でもドミナント機能は備えています。3音が導音であり、ルートが完全5度下(完全4度下)へ引き寄せられているからです。

ところが、ここに7音(譜例ではF)を足すことで解決感はさらに強まるのです。Cメジャー・キーではFとBが増4度音程という非常に不協和な響きを生み出すのですが、それが協和的な短6度もしくは長3度音程に収束されることによって、大きな対比が生まれるからです。

このドミナント・セブンスは非常に有用なコードであり、様々な場面に登場・活躍します。後述しますが、より解決感を得るために、この和音に限っては様々なテンションを付加することが容認されています。

ダイアトニックから飛び出すための和音

Cメジャー・キーでダイアトニック・コードでのみの進行をさせる場合、変化記号(#や♭)は出現しません。いくら組み合わせ方が無限大だとはいえ、響きの単調さは否めないものがあります。そこで、ダイアトニック・コード以外のコードが導入されるわけなのですが、その手法は2種類あります。

  1. 単に響きの単調さを逃れるために一時的に用いる。
  2. 転調するために導入する。

ここでは特に1.に限っての非ダイアトニック・コードを紹介してみましょう。

セカンダリー・ドミナント・コード(副属7の和音)

ダイアトニックの各コード(メジャー・キーではVII,マイナー・キーではIIを除く)をトニックと見立てて、それに対して属7和音を先行させます。Cメジャー・キーでは以下のようになります。VIIが抜けているのは、Bm(-5)という減3和音のためんいトニックになり得ないからです。

ナチュラル・マイナースケールではII以外のコードに対してセカンダリー・ドミナントを置くことができます。IIはDm7(-5)という和音のためにトニックにならないからです。

ハーモニック・マイナー・スケール上のコードでは、3種類のコードのみセカンダリー・ドミナントを先行させられます。

メロディック・マイナー・スケール上のコードも、3種類のコードのみセカンダリー・ドミナントを先行させられます。

すべての調で、セカンダリー・ドミナントとダイアトニック・コードの組み合わせを記譜・演奏してみましょう。

セカンダリー・ドミナントの一覧はこちら

(ただし、ハーモニック・マイナー・スケールとメロディック・マイナー・スケールでのセカンダリー・ドミナントは掲載していませんので、ご自分で譜例を移調して確認してください)

ツー・ファイブ

5度下行(4度上行)というのは非常にスムーズな進行です。したがって、ダイアトニックの属7に5度上のII度和音を先行させるパターンがあります。特にジャズではこの進行が常套手段になっているほどです。もちろん、セカンダリー・ドミナントにもII度を先行させることができます。ただしそのII度は、ダイアトニック・コードのII度ではなく、仮にトニックと見立てた調のII度ということになります。このコードは正式には「リレイテッドIIm7」と呼ばれます。クラシックの古典和声では「第2ドミナント」という機能名が与えられており、どちらのジャンルでもII-Vを1セットと考えていることがわかります。

さて、このII度上のコードは、メジャー・キーでは普通のマイナー・セブンス・コードですが、ナチュラル・マイナーやハーモニック・マイナーではハーフ・ディミニッシュになります。ということは、ツー・ファイブでもハーフ・ディミニッシュが使えることになります。ドミナント・セブンス自体からはメジャー・キーを指向しているのかマイナー・キーを指向しているのかは判別できません。セットになるII度上和音が判断材料を提供するわけです。では、どちらを使うのが正解でしょう?

 実は正解はありません。一般的な考え方としては、なるべく現行のキーに近いほうを選びます。

上記の譜例ですと、Gm7ならフラットが1個、Gm7(-5)ならフラットが2個になります。現行のキーはCメジャーなので変化記号はゼロ。ということはフラットが2個のGm7(-5)よりも1個のGm7のほうが違和感が少ないことになります。

もちろん、敢えて違和感が大きなほうを選ぶという選択もアリです。それは作曲者の判断に委ねられるわけです。

ちなみに、アナライズの記号ですがドミナント・モーションは弧線の矢印で示されます(このサイトでは描画の都合上、矢印は省かれています)。またツー・ファイブ・モーションはで示されます。

ツー・ファイブの一覧はこちら

サブスティテュート・ドミナント・セブンス(代理和音・裏コード)

ドミナント・セブンスとはかけ離れているように感じられる「♭II7」は、その構成音を見ると、機能的に驚くほどよく似ていることがわかります。 

そこで、ドミナント・コードだけでなくセカンダリー・ドミナント・コードもすべて、ルートが増4度(減5度)離れたコードに置き換えられることになります。もちろん、ドミナント系のコードなので、テンションも同様に使えます。

リレイテッドIIm7を伴ってツー・ファイブも形成されますが、さらにバリエーションとして、通常のドミナント・セブンスのリレイテッドIIm7とも交換可能す。

サブスティテュート・ドミナント・セブンスはI度に解決するほか、II度・III度・IV度・V度・VI度に対しても用いられます。VII度に対しても使えないことはありませんが、それは決してドミナント・モーションとはなり得ません。

代理和音を含むツー・ファイブの詳細はこちら

 ドミナント・コードは非常に奥が深く、様々なシチュエーションで活躍しますが、とりあえずは以上の用法を押さえ、次の項目へ進みましょう。

借用和音(準固有和音)

 借用和音とは、読んで字のごとく、借り物の和音です。具体的には、元調(現行の調)のダイアトニック・コード以外の、一時的な他の調のコードを指します。セカンダリー・ドミナントも概念的には含まれるのですが、ここでは、「サブドミナント・マイナー」「ナポリの和音」「ドリアのIV」等に限って説明します。

サブドミナント・マイナー

 これは、長調で用いられる和音で、借用先は同主短調のIVの和音になります。ハ長調では、Fmがサブドミナント・マイナー、つまりサブドミナント・コードを短三和音にしたもの、ということです。

 サブドミナントが三和音だけでなく、4和音や付加6の形でも用いられるのと同様、というよりも、マイナー・キーにおけるIV度和音も4和音や付加6度の形で用いられるので、それらも借用することができます。

 そして、その代理和音(同じ機能のコード)も借用の対象となります。それらはすべて、特性音として♭VI度音を含んでいるからです。

 ということで、サブドミナント・マイナーは10種類あることになります。この中で注意が必要なのは、「♭IIM7」です。これは、前出の代理コード(裏コード)の「♭II7」によく似ていますが、セブンスではなく、メジャー・セブンス(長7の和音)ですので、ドミナント機能はありません。これから説明する「ナポリの和音」というものになります。

サブドミナント・マイナーの一覧はこちら

ナポリの和音

 用語の語源はわかりませんが、ナポリの和音というのは本来、マイナー・キーのIIm7(-5)のルートを半音下げたものです。本来は変化和音に入れられるべきだと思うのですが、これがメジャー・キーでも借用されることがあるために、このカテゴリーで扱われています。基本的には、サブドミナントとして第1転回形で用いられ、I/V→V7とつなげるのが王道です。けれども現在ではサブドミナント・マイナーに括られて、もっと自由に使われています。前述したように、セカンダリー・ドミナントと区別がつきにくいので注意が必要です。

 また、この和音自身もセカンダリー・ドミナントの対象になります。

ドミナント・コードの効力

 ここまでで、ダイアトニック・コードとノン・ダイアトニック・コードのおおかたは理解・把握されたとおもいます。これで作曲するための和音領域の素材は手にしたといえます。ただし実際には、まだ学ばねばならない重要な項目が残っています。それは「テンション」と「コード・スケール」です。ですがその前にここで「ドミナント・コード」の素晴らしい能力を確認しておきたいと思います。

 まず、ドミナント・セブンス(□7)が出現するシチュエーションを確認しておきましょう。

  • 各調のV度上に形成される固有のドミナント・コードとして
  • ♭II度上に形成される代理(裏)コードとして
  • セカンダリー・ドミナント・コードとして(代理コードも含む)
  • サブドミナント・マイナーの代理コードとして(♭VII7)
  • ナチュラル・マイナー・スケールの♭VII度音上に形成されるセブンス・コードとして
  • メロディック・マイナー・スケールのIV度音上に形成されるセブンス・コードとして

 ドミナント・セブンス・コードは、基本的にはトニック系のコードに解決されるのが通常ですが、それ以外にドミナント機能を持たない用法もあります。

 ドミナント・セブンス・コードは、実は、どんなコードへも進むことができます。それがどんなカラクリになっているか、ここで検証してみましょう。これを使いこなすだけでも、コード進行のバリエーションはかなり広がりますし、転調にも役立つはずです。

C7のルート別進行先の一覧はこちら
D7のルート別進行先の一覧はこちら
E7のルート別進行先の一覧はこちら
F7のルート別進行先の一覧はこちら
G7のルート別進行先の一覧はこちら
A7のルート別進行先の一覧はこちら
B7のルート別進行先の一覧はこちら

コード・スケールを理解しよう

スケール (Scale)とモード(Mode)について

 スケールは「音階」、モードは「旋法」と訳されます。前者は調性音楽の基盤となるものですが、旋法のほんの一部でしかありません。音楽はもともと「歌」から始まったものであり、その歌で使われている音を低いほうから順に並べたものが「旋法」になります。西洋古典音楽も長らくは旋法の音楽でしかありませんでした。ただ、西洋音楽の場合は、複数の声部を重ねて歌うスタイルが発展し、やがてそれぞれの音の重なりが和音という形態に発展しました。そして伝統的な旋法の中でも「イオニア旋法」と「エオリア旋法」がそれぞれ長調と短調として調性音楽に収束したのです。

 平均律によって自由な転調が可能になった調性音楽ですが、ヴァグナーの時代には行き詰まってしまいました。いわゆる「調性の崩壊」という現象です。そんな混迷の時代の中で一人の天才が出現しました。フランスのドビュッシーです。彼はパリで行われた万博でガムラン音楽に触れ、長・短調の枠から外れた5音音階や全音階、忘れ去られていた教会旋法などと調性音楽を融合させるという大仕事をやってのけました。その影響は大衆音楽、特にジャズにも大きな影響を与えたのです。

 今日、ポピュラー音楽で必ず触れられる、というより必須の理論として、コード・スケールがありますが、これはこうした経緯のもとで生まれたものでした。現在用いられている「教会旋法」という用語の旋法と通常の旋法は混同されがちですが、コード・スケールの旋法は音階(スケール)のバリエーションにすぎません。もちろん、モーダルな曲でも共通の教会旋法が用いられたりするのですが、コンセプトが全く異なります。コード・スケールにおける各旋法は、長旋法・短旋法(長音階・短音階)の各音階音をルートとしたコードと密接な関係にある、あくまでも調性的な枠組みなのです。その流れで、さらには人工的な音階や諸民族独自の音階も利用することで、長・短調の枠組みでは実現できない響きをも獲得してきました。

7つの教会旋法

 コード・スケールは名前のとおり、コードと密接な関係にあります。ダイアトニック・コードは7つの教会旋法を使うのが基本になっています。まず、Cメジャーのダイアトニック・コードをおさらいしてみましょう。なお、以下の譜例では、コード構成音を青色の音符で示し、アボイド・ノートは赤色の音符で示してあります。

 例えばI度音上のコード「CM7」はトニックですが、Cメジャー・スケールに占める位置は次のようになります。 

  スケールで見た場合、青色の「C,E,G,B」がコード・トーンで、残りがノン・コード・トーンになるわけですが、IV度のF音は3音のEと短9度を生じてしまうので「アボイド・ノート」と呼ばれます。つまりテンションの項目で見たのと同じ理屈です。II度音とVI度音、つまりD音とA音は縦にコードと一緒に鳴らしても問題ありませんし、メロディの一部に含ませてもまったく問題ありません。このI度音から始まるスケールをイオニアン(又はアイオニアン)・スケールと呼びます。もっと正確な言い方をすれば「Cイオニアン・スケール」です。

 「Dm7」はII度音をルートとしているので、そのスケールもII度音(ここではD音)から始まります。スケールの構成音自体はイオニアン・スケールとまったく変わりありませんが、出発音が違うのです。このスケールは「Dドリアン・スケール」と呼ばれます。13thは3音と増4度を生じ、それがドミナント・コードと同じ音程になるため(ここではDとB)にアボイド・ノートとされてきましたが、近頃では積極的に用いられるケースも増えてきました。

 「Em7」はIII度音をルートとしているコードです。このスケールは「Eフリジアン・スケール」と呼ばれますが、II度音とVI度音がアボイド・ノートとなっています。

 4番目のコード・スケールは「Fリディアン・スケール」になります。アボイド・ノートがないのが特徴です。

 5番目のコード・スケールは「Gミクソリディアン・スケール」になります。IV度音がアボイド・ノートになります。

 6番目は「Aエオリアン・スケール」でマイナー・スケールの基本となるスケールです。

 最後の7番目のスケールは「Bロクリアン・スケール」になります。

 以上見てきたように、基本的なダイアトニックのコード・スケールは何の変化音も含んでいないので難しく考える必要はありません。起点の音が違っているだけです。各々の名称は覚えた方が良いでしょう。私はどこかの本で読んだ「井戸ふり見えろ」という頭文字の語呂合わせで覚えてしまいました。

メジャー・キーのコード・スケールの一覧はこちら
ルート別イオニアン・スケールの一覧はこちら
ルート別ドリアン・スケールの一覧はこちら
ルート別フリジアン・スケールの一覧はこちら
ルート別リディアン・スケールの一覧はこちら
ルート別ミクソリディアン・スケールの一覧はこちら
ルート別エオリアン・スケールの一覧はこちら
ルート別ロクリアン・スケールの一覧はこちら

マイナー・キーのコード・スケール

 ナチュラル・マイナーに関しては、メジャー同様、なんの変化音も現れません。したがって、メジャー・キーのコードスケールとまったく同じものになります。呼び名も変わりません。ただし、ドリアン・スケールのVI度音、テンションで言えば13thは、メジャー・キーではアボイド・ノート扱いでしたが、マイナー・キーではアヴェイラブル・スケール・トーンに変わっていますのでご注意ください。

マイナー・キーのコード・スケール一覧はこちら

教会旋法の各スケールの音程関係

 基本的なダイアトニックのコード・スケールは、単純に起点音がずれていくだけなので、音程関係もそれに従って擦れていくだけです。念のため、譜例を掲載しておきましょう。

 これらの音程関係が理解されていれば、どんなスケールでもすぐに音がわかるはずです。例えば「Cドリアン」なら、ドリアンは「全半全全全半全」ですから、

 となります。変化記号がついている音が2つですから、大もとのキーはB♭メジャーかGマイナーであることもすぐにわかりますね。もしくは、ドリアンは2番目のスケールですから、出発音の長2度下の音、B♭が1番目のスケールの出発音であり、トニックのルートであるので、やはりB♭メジャーかGマイナーであることが導き出せます。

ハーモニック・マイナーのコード・スケール

 ハーモニック・マイナーでは、VII度音が導音として半音あげられますので、それに従い、コードも違うものが出現します。当然、スケールにも影響が出ます。Eマイナー(イ短調)で説明しましょう。

 名称はモロにそのまま「ハーモニック・マイナー・スケール」ですね。当然ですが。

 名称の「フラット6」とは、ナチュラル・マイナーではGとなってしまった音を本来の状態で使うという意味で「ナチュラル」という言葉を使っているのかと思いきや、実はナチュラル・テンションのナチュラルなんですね。

 V度音が半音上がっていますので、「イオニアン#5」という名称に変わっています。

 同様の理由で、「ドリアン#4」という名称が使われます。

 たとえナチュラル・マイナーでも、トニックへの解決はドミナント・セブンス・コードが用いられます。 

 6番目のスケールは「リディアン・シャープ2」となります。II 度音はテンションの9thと同等ですから「リディアン・シャープ・ナインス」と呼ばれることもあります。

 ダイアトニック・コードで唯一の「ディミニッシュ・セブンス・コード」になります。

各キーのハーモニック・マイナーのコード・スケール一覧はこちら

メロディック・マイナーでのコード・スケール

  ここまでの説明を読んで気づいたことがあると思います。メジャー・キー及び3種類のマイナ・スケールで同じコードなのに、スケールはそれぞれ異なっている事ですね。どのスケールを採用するのかについては一定の基準や指針がありますが、必ずしもそれに従う必要もありません。一つのコードに対してどれだけの選択肢があるのかを知っていれば、それだけ作曲の幅も広げられるでしょう。

各キーのメロディック・マイナーのコード・スケール一覧はこちら

ドミナント・セブンスのコード・スケール

 すでに学んだように、ドミナント・セブンス・コードは進行先が極めて豊富なコードですが、同時に、多くのテンションを使うことができるコードでもあります。ということは、それに応じてコード・スケールも数多くあります。

 ここではG7を例に、利用可能なスケールを並べてみます。

Harmonic Minor P5th Below の一覧はこちら
Altered Dominant Scale の一覧はこちら
Mixolydian ♭6th の一覧はこちら
Wholetone Scale の一覧はこちら
Spanish 8 Notes の一覧はこちら
Combination Diminished Scale の一覧はこちら

セカンダリー・ドミナントのコード・スケール

 セカンダリー・ドミナント・コードで用いるコード・スケールを導きだすためには、まずドミナント・コードが進もうとする先のキーで考える必要があると同時に、元調との兼ね合いも考えねばなりません。

例えば「V of III」では解決先のキーはEメジャー・キーです。ドミナント・コードではD#とF#を当然用いるのですが、スケールで考えた場合に、本来はC#であるはずの音はCナチュラルとなっています。G#もGナチュラルに変更されています。こうすることで元調のスケールの音にできるだけ近づけて変化量を抑えているわけです。もちろんここでEメジャー・キー本来の「B Mixolydian」を使用することもできるわけですが、それらの使い分けは、作者がどれほどの変化を望むのかによって決まってきます。以下の挙げてあるコード・スケールはいずれも元調からの変化を最小限に抑えるコンセプトで用いられているものです(すべてCメジャー&Aマイナー)。

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リレイテッドIIのコードスケール

 リレイテッドIIとは、ドミナント・コードやセカンダリー・ドミナントとセットで使われる「ツー・ファイブ」の「ツー」にあたるコードでしたね。メジャー・キーでは基本的に、「ドリアン・スケール」が用いられます。ただし、IImに対するセカンダリー・ドミナントのリレイテッドIIはダイアトニックのIIImと被ってしまうので、フリジアン・スケールが用いられることもあります。

  m7(-5)がリレイテットIIとなる場合は「ロクリアン・スケール」が使われます。いずれも既出のスケールですので、譜例は省かせてもらいます。

代理コードのコードスケール

 代理和音のコードスケールは基本的に、「リディアン・ドミナント・スケール」が用いられます。

以下、加筆予定