和音の表記法について

 和音は記号や数字を使って表すことができます。一般的な「コード・ネーム」はジャズやポピュラー音楽全般で用いられており、主に演奏するための指標として活用されています。一方、クラシック音楽の世界では、ローマ数字を用いた「和音記号」がメインで、主に楽曲分析や和声学習に使われています。西洋音楽のバロック時代以前には「通奏低音法」という数字のみの表記が使われていました。バロック以前は即興演奏が当たり前で、伴奏者もベース譜に付けられた数字を見て、即興で和音を演奏していたのです。この「通奏低音法」は現在でも和音学習に用いられています。

コード・ネーム

 コード・ネームは歴史の浅い表記法ですが、ポピュラー音楽全般で使われています。統一規格があるわけではなく、基本的な用法に対して、個人個人さまざまな方法を取っているのが現状です。

 コードネームは主に3つのパーツから成り立っています。一番重要なのは、大きく書かれたアルファベットの部分で、これが和音のルート(根音)を表しています。つまり英語表記の音名(A〜G)です。

 上の譜例を見てください。(a)の3つの和音の音名アルファベット「C」「C#」「D♭」がそのコードのルートを表しています。「Cm」の右側にある”m”や「D♭7」の”7”という数字は、別のパーツですので、とりあえず無視しておいてください。(b)にある2つの和音のルート音がコード・ネームの表記と違うことにお気付きですか? 「E#」と「B#」、それに「C♭」と「F♭」は基本的に使いません。こうした音が使われている場合は、異名同音である「F」と「C」、「B」と「E」に置き換えて表記されるのです。もちろん、絶対に使ってはいけないということではないのですが、演奏者を混乱させかねないために、そうしているのです。もし「B#(♭5)」と書かれていたら、ちょっと考える必要があるため、非直感的な表記と言えるのです。

 三和音(3つの音から成る、基本の和音)は4種類ありましたね。その内の2つ、最も基本的な和音は「メジャー・トライアド(長3和音)」と「マイナー・トライアド(短3和音)」になりますが、メジャー・トライアドは何の記号も付さずに、そのルート音だけで表記するのが基本です。一方、マイナー・トライアドは英語の「minor」の頭文字をとって、小文字の”m”を足します。ただし、ジャズ譜ではmの代わりに「-(マイナス記号)」が使われることもよく目にします。

 残りの2つの3和音は、「減3和音」と「増3和音」ですが、どちらも第5音に変化を加えてできる和音です。前者は、その形態を単語で表せば「diminished」になりますので「dim」と記したいところですが、減7の和音にこの「dim」を使うのが一般的なので、「Ø(ハーフ・ディミニッシュ)」を付けるか、「m(-5)」、「 m(♭5)」とします。後「増3和音」の「増」は英語で「augment」ですので「aug」という短縮形を使うか、もしくは「(#5)」「(+5)」とします。

 上述の基本的な3和音にさまざまな記号を足すことで、各和音の構成音を表示することができます。以下にその内容を示しておきます。

7短7度の堆積G7
M7長7度の堆積GM7
dim減7の和音Bdim
9長9度(=長2度)の堆積C9
-9 / ♭9短9度の堆積G7-9
1111度(=完全4度)の堆積G11
1313度(=長6度)の堆積G13
6長6度の付加C6 / Cm6
add付加音Gadd#11
sus掛留和音G7sus4
○/○①転回形の表記(分子は和音、分母は
構成音のベース)
②ベースの表記(分子は和音、分母は
非和声音のベース)
③スラッシュコード(分子も分母も
和音)
④アッパー・ストラクチャー・トライアド
分子にテンション相当の3和音、
分母に本来の和音)
C/G
C/F#
G/F
G/F7

和音記号

 主にクラシックの楽曲を分析する時や和声学習の補助として用いられます。

 ローマ数字を用いて、五線譜の下側に表記するのが一般的にです。この表記法も統一規格があるわけではありません。その主な方法をご紹介しておきましょう。

 ローマ数字はそこで用いられている和音のルート(根音)を度数で表します。例えば「V」とあれば、そこでの調における完全5度音をルートとする和音という意味です。もちろん、度数だけでは絶対値として判断できませんので、必ずどの調なのかを明示する必要があります。そのために「○:」が併用されます。基本的には大文字が長調、小文字が短調を表すために用いられますが、時には旋法名が書かれる場合もあります(例:F Dorian)。

 ローマ数字の扱いに関しては、大文字のみの使用、大文字と小文字の使用、さらにはポピュラー音楽理論と折衷しての方法など様々です。

三和音の表記法

 まず。ダイアトニック・コードに関する表記法を見てみましょう。1段目の黒文字の和音記号は、いわゆる芸大和声法その他で用いられてるもので、全て大文字で表記されます。2段目の青文字の和音記号もやはりクラシック系の表記法で、こちらはメジャー・コードに大文字、マイナー・コードには小文字のローマ数字を用いています。VII度上の記号には「゜」は減3和音であることを示しています。3・4段目の和音記号は、主にポピュラー系の書籍で用いられている表記法です。両者ともにコード記号を併用していて、要は「Dm」や「Bm(♭5)」の音名の部分だけを音階上での度数に置き換えているのみの方法だと言えます。

 マイナー・キーでのクラシック系表記法とポピュラー系表記法の大きな違いは、Ⅲ度、Ⅵ度、Ⅶ度の扱いです。前者は単純に度数の数字のみで表記していますが、後者はマイナー・スケールの実際の度数を表示しています(例えば、第3度音はメジャーの長3度に対してマイナーは短3度なので「♭III」)。

4和音の表記は、単純に3和音の記号に7を足したものですが、ポピュラー系の表記ではコード・ネームの表記に習い、「△」や「major」の記号も併用しています。

 どの方法もそうですが、結局のところ、楽譜に併記して、単独では用いない(つまり、楽譜とともに使用する)ことを前提としていますので、コード・ネームに比べるとかなり不備な点が見られます。それでもそれぞれは、十分役目を果たしていると言えるでしょう。結局は実際に分析する人間が、音楽のコンテキストを理解していれば十分だという考え方なのでしょう。参考までに、「和声的マイナー・スケール」と「旋律的マイナー・スケール」の例も載せておきます。

 和音の転回形に関する表記も見ておきましょう。

 芸大系の表記法は転回形の数を右肩に記している(例えば2なら第2転回形)のに対し、青文字の方法では、通奏低音法の流れを汲んで度数で転回の形態を表示しています。またポピュラー系では「on○」と実音を表記することで転回形を表しています。

 ドミナント系の例も挙げておきましょう。

 芸大系の表記法は「V」にさまざまな操作を加えています。古典和声法では、VII度の減3和音はV7の根音を省略したものとみなしていますので、Vに斜線を入れてそれを表現しています。転回形は、あくまでもV度音(根音)があるという前提で表記しますので、VII度音がルートにある(Bm)和音も第1転回形ということになります(つまり、基本形は存在しません)。

 ドミナント・コードの第5音を半音上げたり下げたりする例はよく見られますが、専門用語では「上行変質(#)」「下行変質(♭)」と言います。Vの左肩に斜線を加えることでr、それを表現しています。

 セカンダリー・ドミナントの表記に関しては、かなり大きな違いが見られます。芸大系の方法は、特殊な記号を用いています。ローマ数字を2段に重ねた形で、上段がトニック・コード以外の解決先のコード(もしくは同主調)、下段がドミナントを表すVから構成されています。下段のVに関しては、単独のVの表記法に準じて、同様に根音省略や転回数等の情報も加えられています。

 以上を参考にすれば、その他の表記法でも類推できるはずです。

通奏低音法

 和音の垂直配置に主眼を置いた表記法です。ベース音(ルートではなく、最低音)からの音程を数字で記すことで、上部に配置される和音を指定します。ただしその音程は絶対値ではなく、和音の特性を表す内容を指しているので、どんな積み上げ方をしようともそれは奏者に委ねられています。

 基本的には、ヘ音記号の楽譜(鍵盤楽器の左手やオルガンのバス声部、その他の低音楽器用)の上側もしくは下側にアラビア数字と記号で表記します。

 基本的な用法を挙げておきましょう。

  1. 数字が書いてなければ「3和音」を意味する。もし数字を伴わずに記号だけ(シャープやフラット等)書かれていれば、それは第3音に適用される。
  2. 「6」は3和音の第1転回形であることを示す。
  3. 「46」は3和音の第2転回形であることを示す。
  4. 「0」は低音のみの発音とする。

 最初の譜例は、一般的な表記法で、2番目の譜例は「フランス式」の表記法です。後者では、3和音の基本形にも「5」という数字を記しています。ルール1の通り、3拍目の和音は第3音がフラットしている「短3和音」であることを示しています。4拍目の和音には数字の「6」が記されているので、ルール2の通り、3和音の第1転回形です。

 青数字は和音の構成音を表わし、Pは「Passing Note(経過音)」の略号です。

  1. 「7」は「7の和音」の基本形であることを示す。
  2. 「56」は「7の和音」の第1転回形であることを示す。
  3. 「34」は「7の和音」の第2転回形であることを示す。
  4. 「2」は「7の和音」の第3転回形であることを示す。

 1拍目の和音は「2」が記されているので、ルール7の通り「7の和音」の「第3転回形」となります。3拍目は「46」とあるので、ルール3の通り3和音の「第2転回形」となります。4拍目は「7」とあるので、ルール4の通り、「7の和音」の基本形となります。

 フランス式の場合、3和音と7の和音に関して、さらに細分化した数字を用いています。

「減3和音」〜属7の根音省略系の場合
  • 基本形:
  • 第1転回形:
  • 第2転回形:
「減3和音」〜マイナー・キーのII
  • 基本形:5
  • 第1転回形:6
  • 第2転回形:
「増3和音」
  • 基本形:5または変化記号のみ
  • 第1転回形:6
  • 第2転回形:
「7の和音」
  • 基本形:7
  • 第1転回形:
  • 第2転回形:
  • 第3転回形:
「減7の和音」
  • 基本形:
「属7の和音」
  • 基本形:
  • 第1転回形:
  • 第2転回形:+6
  • 第3転回形:+4
「長属9の和音」
  • 基本形:
  • 根音省略第1転回形:
  • 根音省略第2転回形:
  • 根音省略第3転回形:
  • 根音省略第4転回形:+2
「短属9の和音」
  • 基本形:
  • 根音省略第1転回形:
  • 根音省略第2転回形:
  • 根音省略第3転回形:
  • 根音省略第4転回形:+2
「主音上の属和音」
  • 属7の和音:+7
  • 属9の和音:+9

 上の譜例で、1拍目の裏はG7の根音省略形(つまり減3和音)の第1転回形です。根音省略形であることを示すために、コード・ネームを赤文字にしてあります。

 上の譜例で、3拍目の裏には「65♭」と記されています。「6」が第1転回形であることを示し、「5フラット」は5度音がフラットしていることを示しています。つまり「減3和音」の第1転回形ということです。蛇足ながら、この小節は「ニ短調」に転調していて「V→I→II→V」というコード進行になっています。ですのでこの「Em(♭5)」はII度上の和音ということになるのです。

「N」は非和声音の一つ、「Neighboring Tone(隣接音)」の略号です。

 2拍目の和音は族7の和音の第3転回形ですが、この「+4」はフランス式の記号で、通常は「2」で示されます。

 13小節1拍目の和音は「短7の和音」の第1転回形、2拍目は「導7の和音」の第2転回形、4拍目は「長7の和音」の第2転回です。

 以上の他に、重要な要素も挙げておきましょう。

  1. 数字の左の「+」は導音を表わす。
  2. 「7 6」「9 8」「4 3」「5 6」「46 5」「2 5」「2 4」の数字連結は、非和声音の、特に「掛留 解決」を表す。1声部に限らず、何重にも重ねて使われることもある。
  3. 音符の下に引かれた横線は、非和声音であることを表わす。
  4. 数字の横から引き伸ばされた横線は、その数字の音が維持されることを意味する。
二重掛留の例