新ギター苦肉のテクニック;Jupitarに挑戦

グスタフ・ホルスト作曲『木星、快楽をもたらす者』(組曲「惑星」より)

ギター編曲 / 江部賢一

タブ譜表記について

 著作権上、ここに譜例を掲載することが憚られるため、すべてタブ譜にて解説しています。そのため、五線譜に慣れたかたには見難く感じられるかもしれません。私自身がタブ譜不要論者であるので、これは大いに矛盾しているのですが、他の表記法がない以上、苦肉の決断の結果であるとお許しください。

冒頭4小節

 このアレンジは、「木星」の中間部 Andante Maestosoの非常に有名な部分です。原調は「変ホ長調」ですが、江部氏は半音下げた「ニ長調」でアレンジしています。ということは、1フレットにカポタストをセットすれば原調の高さで演奏できるということです。

 冒頭の4小節間には運指はいっさい記されていません。まず、一般的と思われる運指を提示しましょう(譜例1)。弱起のF#-Aは、4指で始めていますが、ニ長調(D MajorKey)のローポジションはⅡポジションが基本になることを考えると、譜例2のほうが自然かもしれません。4→1指でも問題ないでしょう。その場合は、1小節1拍目のベースG音は2指で押さえることになるでしょう。

 3拍目のAコードは通常であれば1指のセーハを使いたいところですが、2小節目のD/F#への移行がスムーズではありません。したがって、1・2・3指を同一フレット上に並べる運指をお勧めします。この種の運指は結構使われることが多いので慣れておきましょう。指の太さにかかわりなく、無理に全部の指先をフレットきわに並べる必要はありません。また、肘を少し突き出すことで、押弦が楽になるかもしれません。

 ここで2・3・4指を指定しているのには大きな理由があります。3拍目の16分音符はA音の繰り返しなので(ただし付点8分ではコードの内声、16分音符はメロディーオンと役割が異なりますが)、2指をピボット・ポイントして利用できるのです。つまり2指に力をフォーカスすることで、残りの指をより楽に動かすことができることになります。これも非常に有用で重要なテクニックですので、ぜひ習得してください。

 2小節2拍目の4指を赤で記していますが、2弦を押さえるときに指の一部を1弦に触れさせて消音するというテクニックを使う必要があるからです。ギター演奏において、消音も重要な要素です。特にスケールでは、上向するするときは指の離弦(もしくは抜重)でも対処できますが、弦移行を含む下行スケールでは左手の一部(特に指の一部)を使うことで消音するのが一番楽なテクニックと思われます。通常の押弦の指の角度を垂直から少し傾けるだけで済むからです。

譜例1

 では、別のアプローチを考えてみましょう(譜例2)。

 前述のポジションを基本にした運指として、弱起部分に3→1指を採用しています。そうすると、4小節のF#もそのまま押さえ続けられるという利点もあります。

 1小節2拍目裏のD音は通常なら4指を使うでしょうが、こうして3指を使うことで次のコードへの移行をスムーズにする手もあります。

譜例2

12−16小節

 この部分はポジション移動が大きいコードの連続となります(譜例3)。

 運指の指定が記されていましたので、それを基にして書いてみました。ベースの進行が滑らかな下行形になっていることを意識しながら弾くことが大事です。この部分のコード進行を示しておきましょう。

譜例3

 ではここで、大きな移動を減らす運指を考えてみます(譜例4)。

 上記の譜例3と比べてみますと、まず2小節3拍目のポジションが異なっています。譜例3ではⅤポジションへ移動する運指となっているところを、ポジションを変えずに。7フレットのセーハを保ったままの運指になっています。

 そして3小節1拍目もⅢポジションを取らずに、やはり7ポジションのままのでセーハを継続して1指と4指の交替だけで済ませています。3拍目も同様です。

 そして、セーハしていた1指を立て気味にして3フレットまで滑らせて4小節のG音を押さえます(スライド時の雑音に注意しましょう)。

譜例4

17−20小節

 曲中で一番盛り上がる部分です。最高音が一番高い音(E音)に達し、バスも大きく動いています。この部分で一番難しいのは2小節3拍目のDM7でしょう(譜例5)。1・2・4指が前のコードの各弦から離れるからです。ただ2拍目で3指だけが使われるのが救いで、この2拍目のD音を押さえている3指を支点にして、他の指をなるべく次に押さえるべきフレット上に移動させることが成功させるポイントとなります。

 3小節3拍目の5フレットのセーハはフル・セーハ、もしくは5弦までカバーするように押さえます。そして、次の2フレットにたどり着くまでに指の配置を変えておきます。実際にコードを押さえるのは2拍目なので、配置が遅れても問題ありません。

譜例5

 さてここも、別の可能性があります(譜例6)。

 1小節1拍目は1指と4指が大きく広げられます。この運指はGコードでよく使われるので、日頃から訓練しておきましょう。さて、譜例5では直前の弱起の運指が3→1指となっていますが、これだと1指を1弦5フレットから6弦3フレットへと素早く移動させねばなりません。4フレット以内の範囲でしたら素早い移動も問題ないかもしれませんが、ここでは手の拡張を伴うため、なるべく使う指をフリーにしておくことがポイントです。譜例には示していませんが、1弦2フレットF#(1指)→1弦5フレットA(4指)という運指もアリです。

 譜例5では1小節1〜2拍のメロディーラインの7フレットで1指と4指の押さえ替えを指示しています。けれども、4指をそのままスライドさせることも可能です。

 3拍目は付点8分音符と16分音符の組み合わせです。この裏のA音を2指で押さえると、次の1弦D音に素早く移動させなければなりません。それならば、2指に押さえ直して3指をフリーにしておいたほうが遅れが生じないはずです。

 3小節全体を5フレットのセーハで通すことも可能です。

譜例6

 もう一つの代替案も紹介しておきましょう(譜例7)。

 1小節3拍目のDコードをセーハしてしまうのです。2小節1拍目もやはり7フレットのセーハなのですが、ベースのF#を押さえるために1指をズラさなければなりません。やはりここでも、2指を支点にすることで1指を楽にズラせるでしょう。

 3小節もセーハで押さえることができます。ただしこうすると、1拍目裏のC#を3指で押さえなければなりません。私は指が硬いので、これはちょっとツライです。

譜例7

最後に

 如何でしたか?

 左手の運指はいろいろな選択肢があります。どれを選ぶかは、個人的な条件や制約によって決まる場合もあれば、音色やフレージングが条件になることもあります。どれが正しいということはありませんが、テクニックが向上するにつれて選択肢が広がることもまた事実です。出版されている譜面の運指というものは、奏者の主観を押し出したもの(例えば「セゴビア・エディション)から最大公約数的なものまで様々です。もちろん、代替のきかない限定的な運指もありますが、譜面に囚われる必要もないのです。

 この「新ギター苦肉のテクニック」では、こうした様々な可能性をご紹介していこうと思っています。

出典;「極楽 フィンガーピッキングスタイルで楽しむソロギターサウンド2007」(Go!Go!GUITAR2007年3月号増刊)、ヤマハミュージックメディア、2007年3月19日発行、p.112